東京地方裁判所 昭和58年(ワ)2322号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
「第二 請求原因
一 原告は、請求原因として、次のように主張した。
「1 原告(昭和二三年九月二四日生)は、左記交通事故により、右大転子脱臼骨盤骨折左脛骨骨折の傷害を受けた。
記
(一) 日時 昭和五七年四月二二日午前二時五五分ごろ
(二) 場所 新宿区住吉町八八番地
(三) 事故車輛 事業用普通乗用車(多摩五五い二八〇五、以下「加害車輛」という。)
(四) 当事者
(1) 加害車輛運転者 被告 茂木洋一
(2) 加害車輛所有者 訴外第十日本交通株式会社(以下「訴外第十日本交通」という。)
(3) 被害者 原告
2 事故の態様
訴外第十日本交通は、自動車による旅客運送事業を営む者であるところ、その従業員である被告茂木洋一がタクシー業務に従事していた際、たまたま客となつた原告を同乗させて進行中、スピードオーバーと急ハンドル操作により、新宿区住吉町八八番地所在訴外石原重美所有の建物に激突し、同乗中の原告に対し前記の傷害を負わせた。
以下右の交通事故を本件交通事故という。
3 責任原因
(一) 被告茂木洋一は、加害者輛を運転中、スピードオーバー及び急ハンドル操作により本件事故を発生させたものであるから、その運転には過失があるものというべく、民法七〇九条の不法行為責任を負う。」
【判旨】
請求原因1及び2並びに同3(一)の各事実は当事者間に争いがないから本件事故につき被告茂木洋一(以下「被告茂木」という。)は民法七〇九条に基づく不法行為責任を負うものというべく、当事者間に争いのない右の各事実と弁論の全趣旨によれば、本件事故につき、訴外第十日本交通が加害車輛の保有者として、自賠法三条の規定に基づく運行供用責任を負うものというべきである。右認定を左右するに足りる証拠はない。また、請求原因5の事実については当事者間に争いがないから、結局被告両名は、原告が本件事故によつて被つた損害を連帯して賠償すべきものといわなければならない。
<中略>
慰藉料について
前記当事者間に争いのない各事実及び弁論の全趣旨によつて窺知できる本件事故の態様、原告と訴外会社及び被告両名との関係、原告が被つた傷害の部位程度、入・通院期間、実通院日数等から推認できる原告の被つた苦痛の程度、原告及び被告茂木の年令、職業、収入の程度、後記認定に係る本訴にいたる過程、本訴における和解の推移等諸般の事情を考慮すると、原告は金一三〇万円を被告両名から連帯して支払われることによつてその苦痛を慰藉されるものと認めるのが相当であるから、原告は慰藉料金一三〇万円の損害を被つたものというべきである。右認定を左右するに足りる証拠はない。
(なお、加害自動車の運転者が加害者であつて、被害者は当該自動車の単なる同乗車である場合等に、当該運転者と被害者との間に存する人的諸事情によりいわゆる好意同乗の場合として、右の被害者からの加害者に対する慰藉料等の損害賠償請求中相当とすべき損害額の算定に関し、これを減殺する方向に働くことがあるものとするのであるならば、右の人的諸事情は、その内容いかんによつては、右の慰藉料等の損害賠償の額を増加させる方向に機能することもありうるとするのが法の所期する正義及び公平の観念に合致するところというべきである。
そして、本件のように、加害者が、自動車による旅客運送事業の経営を行う訴外会社のいわゆるタクシー運転者であつて、右のタクシー営業に従事中、これにたまたま乗客として乗つた者が、加害者の運転する自動車の走行中に発生した運転者の過失に基づく事故のため、その被害者とされて損害を被るに至つたが、被害者には何ら責められるべき点が見当らないといつた事情のある場合(本件がかかる場合であることは記録上明らかである。)には、職業倫理ないしは営業倫理の観点及び商法五九〇条の規定の精神にかんがみ、被告茂木及び訴外会社との関係において、被害者である原告の被つた損害のうち少くとも慰藉料については、これをある程度増額すべきものとするのが相当である。) (仙田富士夫)